インタビュー

僕たちが何もないところから作ったものが、誰かの“最期”を支えている

僕たちが何もないところから作ったものが、誰かの“最期”を支えている

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何もない場所から始めることは、恐怖ではなく希望だった。利用者が一人もいない、真っ白なステーションから歩み始めた中西さんは、ICU(集中治療室)での3年間を経て、まだ立ち上がっていなかった訪問看護ステーション「first」の扉を叩きました。

SNSで見つけたこのステーションに惹かれた理由は、「新しいものを作っていきたい」という純粋な直感。そして今、その選択が正しかったことを、目の前で看取った利用者さんの穏やかな最期と、家族の充実した表情から確信しています。

立ち上げ前のステーションに飛び込んだ理由――「ここだ」と感じた直感の正体

——firstで働くことになった経緯を教えてください。

もともと訪問看護への転職を考えていて、個人でやっているステーションで働きたいという希望がありました。SNSで情報を集める中で、firstを見つけたんです。

その時点ではまだステーションは立ち上がっていませんでした。でも、新しいものを一から作っていきたいという気持ちがあったので、むしろそこが魅力的でした。

firstの他にも2社ほど候補がありましたが、実際に見学したのはfirstだけです。見学したときに「ここにしよう」って、直感で決めました。

——具体的に何が決め手でしたか?

0から何かを作り上げていくプロセスに関われるので、立ち上げ前というのがかなり魅力だと感じました。

あとは副代表と話してみて「あ、ここ良いかもな」と思ったのも大きいですね。

ICUから訪問看護へ――「一人で針を刺せない」という技術的な不安

——訪問看護に転職するうえで、不安はありませんでしたか?

3年ほどICU(集中治療室)にいましたが、救急外来で処置をしてきた患者さんや、手術後の患者さんが来るんですよ。手術後の患者さんは、採血しなくても採血できるルート、いわゆる点滴用のルートがもうすでに入っていることが多いんです。

なので、針を刺して血管を確保するという、看護師にとっては日常茶飯事の手技をほとんど経験していませんでした。一般病棟だと日常的にやる手技なのですが、ICUではそういった経験がなくて。訪問看護では一人で対応しなければならないので、「失敗したらどうしよう」「入らなかったら誰を呼べばいいんだろう」という不安がありました。

このような手技を練習するのもなかなか難しいので不安がありましたが、代表と面談をしたときにかけてもらった言葉に背中を押されました。

代表がもともと救急外来などをメインに働いていたので、「困ったら助ける」って言ってくれたんです。そういったフォローがあったので、安心して訪問看護の世界に飛び込むことができました。

——「firstってこういう会社だな」と思った出来事はありますか?

入職したとき、firstには利用者さんが一人もいませんでした。もともと「立ち上がっていないところで、新しいものを作っていきたい」と思って入職を決めたので、まさにそれが実現できる環境だったんです。

利用者さんがいないからこそ、TikTokの撮影をしてみたり、ホームページを作ってみたり。通常業務がない分、広報活動や営業、仕組み作りに時間を使えました。とりあえず新しいことにチャレンジしながら、何でもいろいろやってみる。そういう挑戦的な社風だなと感じましたね。

高流量酸素の患者を自宅へ――「帰しても良いのか」という葛藤の先に見えたもの

——印象に残っている利用者さんとのエピソードを教えてください。

高流量酸素の患者さんが印象に残っています。医療的には極めて困難な状況でしたが、本人と家族は「家に帰りたい」と希望していました。帰ってもすぐに亡くなってしまう可能性もあったので、医療者としての判断と患者さんの希望と、どちらを優先すべきなのか悩みましたね。

結局、代表と一緒に病院へ向かい、本人を車に乗せて自宅へ帰りました。僕は別の車で待機して、いつでも対応できる体制を取りましたが、このときはすごく挑戦だったなと思います。

——その経験から、今に生きていることは?

やっぱり、本人やご家族の想いを尊重するのが一番なのかなという学びでもありました。この経験をしてから、まず利用者さんの意思を聞くようになりました。

一人ひとり、いろいろと状況も環境も違うし、病状も違う。結局僕たちの評価だけでは測れないところがあります。その意思によって、良くなったり悪くなったりすることも全然あるんですよね。

医療者が「これが最善」と一方的に決めるのではなく、本人が「こうありたい」と願う気持ち。そこを大事にして、まずどうしたいかを聞くようになりました。

目の前で看取った「理想の最期」――幸せそうな表情が教えてくれたこと

——訪問看護をやっていて、よかったなと思った瞬間はありますか?

訪問看護の現場では、看取りに立ち会うことがあります。本当に目の前で亡くなられたことがあったんですけど、主観的ではありますが、幸せそうだなと思いました。

この方は自宅で、家族に見守られながら最期を迎えられた。ご家族も亡くなることに関しては悲しいけれど、その状況をちゃんと受け止めながら、最後の時間を一緒に過ごせました。充実というとあれかもしれないですけど、そういう風に感じ取られていたので、なんかすごく理想だなと思いましたね。

——その経験は、その後のケアに何か影響を与えましたか?

エンゼルケアといって、最後に体を拭いたりするときに、ご家族にも手伝ってもらうことがあります。今までの関わりを踏まえて、ご家族の表情や今の心情を見ながら、「こういう風にしてあげたら良いかな」とすごく考えるようになりました。

何回か経験することで、「もうちょっとこうしたほうが良いかな」と考えながら向き合うようになって、そこは経験が生きているかなと思います。

常に挑戦できる環境と、関係性を育む「当たり前」

——firstの強みはどんなところだと思いますか?

常に挑戦できるし、そういう機会ももらえるので、そこは強みかなと思っています。たとえば、重症な利用者さんのカンファレンスなどで病院に行くのは管理者だけということが多いと思いますが、firstは基本的に誰でも行くことができます。

あとは僕も代表と一緒にコンサルに入ったりしてるんですよ。普通に考えたらなかなかない経験なのですごく貴重ですし、経営に関する勉強も教えてもらったりとか、視野を広げる機会が多くあります。こういう機会をもらえるのは、あまりないと思ってます。

——チーム全体の雰囲気で、特に印象的なことはありますか?

firstの文化として特徴的なのが、昼休憩に全員がステーションに戻ってくることです。やっぱり圧倒的に昼休憩で帰ってこないステーションが多いというか、珍しいですよね。

もちろん緊急があれば行きますし、今日はちょっと家に寄りますといった柔軟さもありますが、基本的にみんな戻ってきているので、その昼休憩だけでもすごく会話ができるんですよね。このなにげない習慣が、チームの結束を生んでいると思います。

代表と副代表――対照的な二人がもたらす絶妙なバランス

——代表と副代表はどんな存在ですか?

代表はまっすぐですね。やっぱり軸があるというか、これはこうと決めたことに対しては本当にブレない。ブレないからこそ、しっかりと進んでいける。決めたことをやる、そこに対しての熱量はすごいと思います。

副代表の辻さんは、いるだけで良いって感じがしますね。たぶん副代表が代表と同じような感じだったら、バランスが悪いのかなと。代表に負けないくらいすごい存在だと思いますが、良い意味で本当に全然違う。場を和ませられるのは副代表にしかできないですね。

——お二人のリーダーシップの違いで、会社にどんな良い影響がありますか?

代表が引っ張っていくからこそ、迷いなく進める。そして、副代表が何でも受け入れてくれる。この二軸があるから、下も安心感があると思います。

困ったときは副代表に相談しやすいし、方向性に迷ったときは代表がはっきり示してくれる。「相談しやすい」と「引っ張っていってくれる」という、それぞれの安心感ですね。

柔軟な働き方の裏側――スピーディーな意思決定と現場の声

——仕事が終わったあとの過ごし方は?

普通に遊びに行くこともありますし、スポーツジムに行くこともあります。

集中治療室は重症な患者さんばかりですが、受け持つ人数自体は少なかったので、もともとあまり残業はありませんでした。なので、時間の使い方はそこまで変わっていませんね。

——firstは柔軟な働き方ができると聞きましたが、具体的にはどんなところですか?

困ったことや、もっとこうしたら良いかなということは、どこで働いていてもあると思うんですけど、そういったときの変更が早いと思います。

訪問看護の場合、病院に比べると夏の暑さや冬の寒さをダイレクトに感じるんですよね。ご自宅にクーラーがない利用者さんもいっぱいいるので。僕も暑さ対策で首につけるやつとかいろいろ試したんですけど。

この暑さ・寒さ対策も、代表が自らこうした方がいいんじゃないかと動いてくれて。夏と冬の3ヶ月ずつは、月に5,000円ほど手当てが出るようになりました。

ただ、新たな制度をつくるときも、何でもかんでも提案を通すわけではなく、すごくしっかり線引きしています。線引きはしながらも、柔軟に対応してくれるところが良いなと思っています。

何もないところから始める勇気が、誰かの最期を支える力になる

立ち上げ期のfirstには、利用者さんが一人もいませんでした。通常業務がない代わりに、TikTok撮影やホームページ制作、営業活動など、ゼロから新しいものを作り上げていく日々。そんな挑戦の先に、中西さんが向き合ったのは、高流量酸素が必要な患者さんを「家に帰す」という決断でした。

医療者としての「正しさ」と、本人と家族の「想い」の間で揺れながらも、中西さんが選んだのは、相手の意思を尊重する道でした。

その選択が、穏やかな最期と家族の充実した表情という結果につながったとき、彼は確信したのです。医療者が一方的に決める「最善」ではなく、本人が願う「こうありたい」という気持ちこそが、ケアの中心にあるべきだと。

「良い先が見える」

中西さんのこの言葉は、目の前の仕事に真摯に向き合いながらも、常に「何ができるか」を考え続ける姿勢から生まれたものです。専門性を深めることだけでなく、経営やコンサルティングにも関わりながら視野を広げ、利用者さんの生活全体を良くしたいと願う。

その柔軟な探究心が、firstという組織と共に成長し続ける原動力になっています。

——最後に、これから応募を考えている方にメッセージをお願いします。

firstは「何でもやってみたい」というタイプの人には最高の環境だと思います。

正直、緊急対応はありますし、難しい症例もあります。でも、firstには困ったら助けてくれる人がいっぱいいます。とても相談しやすい環境です。

そして何より、自分が挑戦したいことに対して、チャレンジする機会を与えてもらえます。「看護師としてもっと成長したい」「新しいことに挑戦したい」という気持ちがある方には、本当に良い環境だと思います。