インタビュー

SNSで見つけた“何もない会社”が、私のキャリアを変えた

SNSで見つけた“何もない会社”が、私のキャリアを変えた

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誰もいない事務所。何もないルール。会社の実態さえ見えない──。そんな「何もない」スタートアップに飛び込んだ竹上さんは、なぜ不安より期待を選んだのでしょうか。

大学病院での安定したキャリアを捨て、SNSだけを頼りに見つけた訪問看護ステーション「first」。そこには、制限だらけの医療現場で諦めかけていた「自分で考え、自分で作る」看護の理想がありました。

入浴を諦めていた患者さんを自宅のお風呂に入れた日。台風で沖縄から帰れなくなった日。そして、誰かの「余裕のなさ」が自分の成長を阻んでいた過去──。一人の看護師が、制約を自由に変えていく物語です。

SNSで見つけた理想の職場——制約のない環境への憧れ

——入職の決め手になったきっかけを教えてください。

もともと訪問看護には興味がありました。でも、どこの訪問看護ステーションを選ぶか、迷っていた時期があったんです。

大学病院で長く働いてきた私は、転職を繰り返す中である確信を持つようになりました。「もう、誰かが決めたルールの中で働くのはやめよう」。今まで働くうえで「やりたいな」と思ったことも、病院の制限でなかなか実現できなかった経験が多々ありました。その経験が、私の中の一つの答えになってたんです。

母体のないスタートアップで、一から作れる場所。そしてSNS発信をしている、今の時代に合った考え方を持つ会社。その条件でSNSを探し回り、見つけたのがfirstでした。

紹介会社は絶対使いたくありませんでした。最初の転職で紹介会社を使い、いろいろ思うことがあったからです。自分で選んで後悔するなら、それも自分の責任。そう決めて、自力でSNSを探したんです。

——他にも候補はありましたか?

いえ、firstだけで他の候補はありませんでした。母体がないスタートアップという状況をプラスに感じたんです。自分でできる、一から作りたいという思いがあったので。

入職したのは本当に初期の段階で、会社自体はあったものの活動はしておらず、メンバー集めが始まったばかりでした。ホームページも何もない状態で、本当に情報がない中での決断でしたが、firstだけが私の条件に当てはまる唯一の会社だったんです。

病院との決定的な違い——ルールのない自由な環境

——初めて面接に行ったときのことを教えてください。

初めて面接に行ったときのことは、今でも鮮明に覚えています。アパートの一室に連れて行かれ、そこで初めて代表の髙橋さんと副代表の辻さんに会いました。

会社自体は存在していましたが、まだ活動は始まっておらず、メンバー集めの段階。ホームページもない、情報も何もない状態でした。知らない人たちと、何もない会社に飛び込む。正直、最初は怖かったですし、その不安は相当なものでした。

でも、「失うものは何もない」「当たって砕けろの精神で、ダメだったらまた次を探せばいい」そう思って一歩を踏み出しました。

入社して約1ヶ月後、不安は安心に変わりました。メンバー全員が素晴らしい人たちで、「この人たちなら信用して大丈夫」と思えるようになったんです。

——入職して印象的だった出来事はありますか?

firstに入って、最も印象的だったのは「何もルールがない」ということです。

病院では、休憩時間も外出もすべて規則で決まっていました。電話の取り方、書類の送り方、封筒の折り方まで。でもfirstでは、それらすべてを自分たちで考え、決める必要がありました。

「いつ送るのか」「どういう文章で送るのか」。一つひとつを、ゼロから作り上げていったんです。

——戸惑いもありましたか?

最初は戸惑いもありました。物品一つ、お薬一つとっても、病院のように勝手に出てくるわけではありません。どうするか、どう決めるか。すべてが手探りでした。

でも、その自由さこそが、私がやりたかったことでした。自分で考えて動く。自分で判断して、責任を持つ。病院時代には絶対にできなかったことが、ここでは当たり前にできる。昼休みに家に帰ってもいいし、ランチに外出してもいい。その柔軟さが、働きやすさにつながっています。

もちろん、訪問看護として最低限守るべきルールはあります。でも病院勤務と比べれば、驚くほど自由ですね。自分で考えて、やりたいようにできる。それが、firstの環境です。

入浴介助で実感した「やってみる」精神

——印象的な仕事のエピソードはありますか?

入職してから特に印象に残っているのは、呼吸状態があまりよくない利用者さんの入浴介助です。状態的にお風呂に入るのは「無理」と言われていた方でした。

しかし、私たちはその「無理」を覆しました。本来なら一人で訪問するところを、代表に無理を言って二人体制にしてもらい、算定もうまく工夫しながら、入浴介助を実現したんです。そして、約1ヶ月間、ご自宅でお風呂に入っていただくことができました。

利用者さんとご家族の喜びは、言葉では表現できないほどでした。「万歳三唱したかった」それが、ご家族の率直な気持ちだったんです。

——この経験を通して感じたことはありますか?

この経験から学んだのは、病院の看護師が想像する「在宅の生活」と実際の生活には、大きな乖離があるということです。「無理」と一言で片付けるのではなく、「やってみる」ことの大切さを実感しました。

こうした柔軟な対応ができるのは、firstならではだと思います。他のステーションでは難しいケースでも、ここでは「自由に好きにやっていいよ」と言ってもらえる。その環境が、利用者さんの生活の質を大きく変えるんですよね。

 一人で判断する責任感——病院との大きな違い

——firstに入って学んだことはありますか?

firstに入って学んだことは数多くありますが、最も大きいのは「訪問看護師として一連の仕事ができるようになった」ということです。

病院では、わからないことがあれば先輩や医師に聞けます。常に誰かがそばにいる安心感がありました。でも在宅では自分で考えて判断し、その場で結果を残さなければなりません。大きなことも、小さなことも、すべて自分の責任です。

最初は重圧を感じるかと思われるかもしれませんが、私の場合は喜びのほうが大きかったですね。「本当に小さいことでも、すべて自分でやってみたい」というスタンスだったので、代表が仕事を任せてくれるようになったことが、何より嬉しかったです。

任されることでモチベーションが高くなりますし、頑張ろうという気持ちになります。その経験の積み重ねが、今の働き方の基盤になっています。

「ヘルパーさんってすごい」——チームで支える在宅医療

——他にも印象的な出来事ってありますか?

今日訪問した利用者さんの中に、難病で朝昼晩とヘルパーさんが入っている方がいました。たまたまヘルパーさんと時間が重なり、一緒にお話しする機会があったんですが、「ヘルパーさんってすごい」と改めて感じました。

利用者さんとの信頼関係やコミュニケーションの取り方。私たちより長い時間、何年単位で一緒にいらっしゃるからこそ、私たちが知らないことも全部知っている。その深い関係性に、心から尊敬の念を抱きました。

firstでは、こうした多職種連携が日常的に行われています。困ったときには、いつでも専門看護師に連絡できます。心不全のことがわからなければ心不全の専門看護師に、精神科のことなら精神科の専門看護師に。得意な人が得意なことをやる、それがfirstのチームワークです。

そして何より、基本的に代表がいつもいてくれます。「急変時も電話していいよ」と言ってくれる安心感。その存在が、日々の訪問を支えています。

帰社後、みんなが報告してくれる話を聞くのも楽しみの一つです。楽しそうに今日のケアの話をするスタッフの顔を見ると、「すごく嬉しいな」と思います。みんなが生き生きと働いている。それが、firstの日常です。

夜に寝れるようになった——訪問看護がもたらした生活の変化

——プライベートのバランスは変わりましたか?

訪問看護に転職して、最も大きく変わったのは生活リズムです。本当に夜寝れるようになって、これは病院勤務時代には考えられなかったことでした。

病院では夜勤があり、2交代制で15〜16時間勤務。お昼まで寝て、ご飯を食べて、また少し寝て出勤。15〜16時間働いて、休憩を取れない日もざらにありました。クタクタになって、何だかわからないご飯を食べて、爆食して、死んだように寝る。そんな生活でした。

今は、7時間睡眠を確保することを目標にしています。いかに早く寝られるかを考えながら、ご飯を食べて、ゆっくりお風呂に入る。そんな当たり前の生活が、どれほど大切かを実感しています。

しっかり寝られるから体も心も回復しますし、次の日も頑張ろうと思えます。仕事の質も、間違いなく上がったと思います。

——他にもワークライフバランスで印象的なことはありましたか?

firstには柔軟な働き方があります。あるとき、沖縄旅行から台風で帰れなくなり、3日間足止めされたことがありました。「すみません、仕事できません」と連絡したとき、ポンと有給を使わせてくれました。

それどころか、「ハッピー休暇」という有給とは別の休暇制度まであります。これは、みんなで協力して作り上げた制度です。

直行直帰もOK。働き方を自分で選べる。そんな環境が、私には合っていると感じています。

専門職との連携で支え合うチームワーク

——チームでどのように助け合っていますか?

得意な人が得意なことをやっているというのが顕著に現れています。認定看護師、専門看護師さんがいるので、たとえば心不全のことでわからない人がいたら、心不全の認定看護師さんに聞きますし、実際に訪問してわからないことがあったときに、そういう専門の看護師の方に連絡を取ってすぐに聞けます。

急に調子が悪いなという人もいっぱいいますが、そういうときも基本的に代表がいつもいるので、相談することもあります。

——自分はどんな役割を感じていますか?

私は中立の立場でいることを心がけています。代表の考えや意図を理解したうえで、それをスタッフにどう伝え、どう動いてもらうかを考えています。

どちらか一方に偏るのではなく、両者の橋渡し役として、バランスを取ることを意識しています。

余裕のある人になりたい——将来のキャリアビジョン

——5年後、どんな自分になっていたいですか?

余裕がある人になりたいです。心にも時間にもお金にも余裕がある、全体的に余裕がある人。

理想の上司像を聞かれたら、私は迷わず「余裕がある人」と答えます。いつ話しかけても余裕で話を聞いてくれるような、そういう存在です。気持ち的にも余裕があって、相談しやすい雰囲気を持っている人になりたいんです。

女性管理職としてのキャリアビジョンも、今はボヤっとしているので明確化できたらいいなと思っています。女性は、出産や妊娠でキャリアがどうしてもストップしてしまうことがありますよね。そのへんは難しい課題ですが、結婚しているとか家庭があるとかに関わらず、いろいろな人が活躍できる職場にしたいと思っています。

マネジメントも経営もわかって、代表を助けられる存在になりたい。実は、それを考えるようになったきっかけがあるんです。代表が本当に休まなくて、ずっと働き続けていた時期があったんですね。「本当に倒れるんじゃないか」ってずっと思っていました。

今はだいぶ休みを取るようになったんですけど、当時は「休めないのは私たちのせいかな」とか思ったりもして。もっと私たちが仕事を取れたら、代表が休めるのに。そう思いながら働いていた時期がありました。

——今から準備していることはありますか?

緩和ケアについて勉強したいというのと、マネジメント力をもうちょっとスキルアップさせたいと思います。緩和ケアでは、特に意思決定の部分を深めていきたいです。

末期の方のケアに関わる中で、患者さんやご家族の意思決定をどう支えていくかは、訪問看護において非常に重要な役割だと感じています。

制約からの解放、そして新しい挑戦へ——竹上さんが見つけた働き方

竹上さんの転職は、病院の制約から解放され、自分で判断し行動できる環境への憧れから始まりました。firstでの経験は、一人で判断する責任感と、チームで支え合う連携の大切さを教えてくれています。

柔軟な働き方と健康的な生活リズムを両立しながら、専門性を高め続ける竹上さん。その姿は、訪問看護の新しい可能性を示しています。

——最後に、これから応募を考えている方にメッセージをお願いします。

元気な人に来てもらいたいです。心身ともに元気な人。

firstは、私が今まで働いた職場の中で、一番みんなが生き生きと働いている職場だと思います。柔軟に働けているというところが大きいし、人もいい。イライラしている人もいないし、萎縮してしまう原因となる怖い存在もいません。

人もいいし、環境もいいし、働きやすいからみんな生き生きしている。そう思ってくれたらいいなと思います。